福島地方裁判所平支部 昭和36年(モ)116号 判決 1962年10月23日
判 決
債権者
高木英次郎
(ほか六名)
右七名訴訟代理人弁護士
A某
同
山野辺政豪
債務者(選定当事者)
下山田英雄
(ほか二名)
右三名訴訟代理人弁護士
大友秀男
右当事者間の仮処分異議事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
当裁判所が債権者等債務者等間の昭和三六年(ヨ)第二七号仮処分申請事件につき、昭和三六年六月六日為した仮処分決定は取消す。
債権者等の本件仮処分申請はこれを却下する。
訴訟費用は債権者等の負担とする。
此の判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実
債権者等は、主文第一項掲記の仮処分決定を認可する旨の判決を求め、その原因として、
一、訴外旧福島県石城郡渡辺村大字上釜戸(同県磐城市の前身)は別紙目録記載の山林及び原野(以下本件山林原野と云う)を含む合計六六筆四三五町余歩の山林原野を所有していたが、昭和二二年六月三〇日、同村議会の議決を経て、債権者等及び債務者並びに本件において債務者等を選定した鈴木ミツノ、荻野光衛、高木シマ、高木庫吉、鈴木鶴吉、馬上寿の被相続人馬上喜八郎、下山田福の被相続人下山田倉之助、下山田ケイ、下山田善定、古内和美の被相続人古内三好、鈴木定次、吉田三好、債務者小林博の被相続人小林専日、鈴木艶吉、鈴木寿、長山酉之助、下山田安吉、遠藤福松、鈴木芳貞、菅原セキ、佐藤左司、鈴木スサ等の各被承継人鈴木子之吉を含む同村大字上釜戸の在住部落民一〇九名に贈与し、ここに右山林原野はすべて右一〇九名の者の共有になつた。
二、ところで、本件山林原野は、同年八月一五日、福島地方法務局小名浜出張所受付第一、三二一号を以つて債務者等及び右選定者等乃至その先代を含む「債権者大内又良他二八名」の共有名義に所有権移転登記がなされているのであるが、これは、当時、一〇九名という多人数の共有名義に登記することができなかつたことと、前記六六筆の山林原野を一括管理するのが困難であつたので、管理の便宜上これを四地区に区分し、本件山林原野の所属する同大字字小繁の地区(以下小繁地区という)は右「債権者大内又良他二八名」、本件以外の、同大字々鳶尾に所属する山林原野(以下鳶尾地区という)は「訴外江尻房義他二三名」、同大字々上ノ代に所属する山林原野(以下上ノ代地区という)は「訴外鈴木安男他二七名」、同大字々瀬峯に所属する山林原野(以下瀬峯地区という)は「訴外下山田善弥他二七名」の各共有名義で所有権移転登記を受けたにすぎないので、本件山林原野を含む右六六筆の山林原野はすべて前記一〇九名の共有地である。このことは次の事実に徴してあきらかである。即ち、右贈与を受けた後、昭和二三年、右共有者全員が同県磐城市大字上釜戸所在の小学校分校に集つて、右六六筆の山林原野が右一〇九名の共有であることを確認し、その管理を右四地区から数名宛選出された山林委員から成る山林委員会に委ねる等の共有規約を制定し、爾来同委員会において右六六筆の全共有地を一括管理してきたもので、その公租公課の負担、造林、毛上の処分、山林所得の分配等は全共有者に平等に負担させ且つ配分してきた。
例えば、山林委員会は(イ)昭和三二年、上ノ台地区に属する三筆の山林の松材を売却し、その売得金三、四四四、〇〇〇円を債務者等及び選定者等を含む右一〇九名の共有者全員に金三〇、〇〇〇円宛平等に配分し、(ロ)同年鳶尾地区内の山林の杉材を売却し、その売得金は債務者等及び選定者等にも金一一、〇〇〇円宛分配した。のみならず、債務者及び選定者等は、別紙目録二記載のとおり、山林委員会より本件山林原野に生立している柴木、薪炭用雑木の払下げを受け、払下げ代金を納入して伐採して来たもので、登記簿上所有名義人であつてもその自由な処分が禁ぜられていることを債務者等及び選定者自身これまで容認しきたつたものである。
三、以上のとおり本件山林原野は前記一〇九名の共有であり、その毛上の伐採は全共有者の同意がなければこれをなし得ないのであるが、債務者等及び選定者等は他の共有者全員の同意を得ないで、最近本件山林原野の毛上を売却した模様であり、その伐採の準備をしている。
四、又債務者下山田英雄、同上遠野遠次郎、選定者古内重太郎、同鈴木ミツノ、同荻野光衛、同高木シマ、高木庫吉、同鈴木鶴吉、同下山田ケイ、同下山田善定、同鈴木定次、同吉田三好、同鈴木艶吉、同鈴木寿、同長山酉之助、同下山田安吉、同遠藤福松、同鈴木子之吉の前記各承継人は本件山林原野につき同人等のため(但し鈴木子之吉の承継人については鈴木子之吉の分として)各二九分の一の持分の登記がなされてあるのを奇貨として右各持分を第三者に売却等の処分するおそれがある。
五、而して債権者等はいずれも前記山林委員であつて山林委員会を構成して本件山林原野の管理権を有しているので、全共有者のため共有権を保存するため、債務者等に対して、共有権確認及び立木の処分禁止の訴を提起すべく準備中であるが、債務者等の前記行為により惹起された急迫なる状態を防ぐため、御庁に、
「前記第四項記載の債務者等及び選定者等は本件山林原野につき持分の売買、贈与、交換、及び抵当権設定等の処分をしてはならない。
債務者等及び選定者等(以上別紙当事者目録記載)は本件山林原野中福島県磐城市大字上釜戸字小繁一二八番の一原野七町四反三畝一二歩地上の別紙図面の朱書部分(通称長木沢杉、菖蒲沢杉山人肌沢杉山)の立木の伐採及び伐倒木の搬出をしてはならない。
前項の立木及び伐倒木は之を福島地方裁判所執行吏をして占有せしめる。
旨の仮処分申請をしたので、これを認容した原決定は至当である」
と陳述し、債務者等の抗弁に対し、
六、磐城市大字上釜戸字上ノ代二四六番の一山林六町五反二畝三歩、同市大字上釜戸字瀬峯一一六番の二山林三四町九畝一歩、同市大字上釜戸字川籠石一五二番山林一町八反二畝二〇歩、同市大字上釜戸字青谷二一二番山林二町五反一八歩につき債務者等主張のとおりの所有権移転登記がなされていることは認めるが、これは本件山林原野を含む前記六六筆を前記一〇九名の者が贈与を受けるにつき費用を支出する等して特に功労のあつた者に対し報ゆる為全共有者より贈与をしたのであつて、この事実はかえつて本件山林原野を含む右六六筆の山林原野が一〇九名の共有に属することを物語るものである。
七、債権者等訴訟代理人である弁護士A某が債務者等主張の人達よりその主張のような事柄の相談を受け、同人等に委任状用紙を手交したことはあるが、右事柄は事件として争訟する程度に熟さなかつたものであり、相談を受けたのみで、債務者等は事件の依頼もせず、同弁護人においてその引受もしていない。したがつて本件仮処分の申請は弁護士法に牴触しない。
その余の事実は争うと陳述し、
疎明(省略)
債務者等は主文第一、二項と同旨の判決を求め、答弁として、
一、債権者等主張事実中、本件山林原野が福島県磐城市に合併される前の同県石城郡渡辺村大字上釜戸の所有であつたこと、債権者等主張のように本件山林を含む大字上釜戸所有の山林原野(但し合計三四二町六反歩である)が同大字に居住する部落民に贈与され、四地区に分けて債権者等主張の様な各共有名義に所有権移転登記がなされてあること、債権者等主張の年頃に、債務者等及び選定者等がそれぞれ金三〇、〇〇〇円及び金一一、〇〇〇円宛の金員を受領したこと、債務者等及び選定者等が本件山林原野の毛上を他に売却し又は売却しようとしていることは争わないが、その余の事実は全部争う。
二、そもそも前記渡辺村大字上釜戸は前記多数の山林原野を有していたところ、当時山林の解放が叫ばれ、且つ又大字上釜戸所有にしておいたのでは管理も充分に行きとどかない状況であつたので、昭和二二年六月三〇日これを債権者等主張のように四地区に分けて、大字居住部落民に分割して贈与することとし、同年七月二六日渡辺村議会の議決を経て、前記鳶尾地区に属する山林原野は訴外江尻房義他二三名に、前記上ノ代地区に属する山林原野は訴外鈴木安男他二二名に、前記小繁地区に属する山林原野は前記大内又良他二八名に、前記瀬峯地区に属する山林原野は訴外下山田善弥他二七名に各贈与され、それぞれ共有者になつたものである。すなわち前記山林原野は右の様に各登記名義に示されるとおり各登記名義人に共有せしめられたものであつて、このことは右四地区に属する山林原野はそれぞれ前記のとおり共有名義者を異にする登記がなされてあることのみならず、次の諸事実にてらすもあきらかである。
即ち、(1)前記鈴木安男他二七名(此の中には債権者岩沢実の被相続人岩沢春吉を含む)は前記上ノ代地区の山林原野の共有者になるやそのうちの磐城市大字上釜戸字上ノ代二四六番の「山林六町五反二畝三歩を昭和二三年五月八日、訴外大友利治に贈与し、同訴外人は更にこれを同年同月一〇日債権者岩沢を除くその余の債権者全員等を含む訴外大平喜代志他六九名に贈与し、各その旨の所有権移転登記を経由している。(3)前記訴外下山田善弥他二七名(此の中には債権者高木英次郎を含む)は前記瀬峯地区の山林原野の共有者になるやそのうち磐城市大字上釜戸字瀬峯一一六番の一二山林三四町九畝一歩を昭和二三年五月八日、訴外大友利治に贈与し、同訴外人は更にこれを同月二〇日債権者岩沢実を除きその余の債権者全員を含む前記訴外大平喜代志他六九名に贈与し、各その旨の所有権移転登記を経由している。(3)更に前記下山田善弥他二七名(此の中には債権者高木英次郎を含む)はその共有になつた磐城市大字上釜戸字川籠石一五二番地山林一町八反二畝二〇歩及び同大字字青谷二一二番山林二町五反一八歩を債権者岩沢実を除く爾余の債権者等を含む前記江尻房義他六八名にそれぞれ譲渡している。(4)債権者岩沢実は昭和三四年二月一五日、前記瀬峯地区に属する磐城市大字上釜戸字川籠石一三七番の一原野三町七反三畝二〇歩の共有者高木菊男からその持分の二分の一、即ち同原野に対する五六分の一の持分を譲受けている。而して、以上(1)乃至(4)の各処分は右各山林原野の共有名義者のみによつて行われたもので債務者等及び選定者等の同意無きは勿論、債権者等主張の一〇九名の共有者全員の同意が無いのに行われたものである。債権者等は、右(1)乃至(4)の山林原野は功労者に対する謝礼の意味で全共有者から贈与したものであると主張するがかかる事実は否認する。(5)更に前記小繁地区に属する磐城市大字釜戸字小繁一二八番の二〇原野六畝八歩、同大字々小繁一二八番の一原野九畝一六歩は、いずれも昭和二九年三月三一日、農地法により買収されたが、これは債務者等を含む前記大内又良他二八名の共有者のみを被買収者とされたものであつて、債権者等主張の一〇九名の共有者に対してなされたものではない。
三、債権者等が主張する金三〇、〇〇〇円の分配は、前記山林委員会が昭和三二年八月頃、前記上ノ代地区の山林の杉立木を約二、五〇〇、〇〇〇円分、前記小繁地区の山林を約一、三〇〇、〇〇〇円分を、秘密裡に、共有者の同意無くして処分した売得金から、債務者等から苦情の出るのを封ずるため債務者等及び選定者等各金三〇、〇〇〇円づつ貸付けたものであり、債権者等主張のような収益の配分といつた性質のものではない。又金一一、〇〇〇円の分配は、同年一〇月頃、前同様山林委員会が本件山林原野中の磐城市大字上釜戸字小繁一二八番の一山林七町四反三畝一二歩に生立する杉立木を共有者の同意無くして秘密裡に訴外逸見某に売却して得た代金を一〇九名の共有者にそれぞれ貸付けたもので、これも収益の配分といつた性質のものではない。
債務者等は右各金員を、本件山林原野が一〇九名の共有であることを認めて受領したのではなくて、山林委員会によつてかかる事実を累積されては困るので、山林委員会の右の如き不法な処分を契機として後記のとおり債権者代理人である弁護士A某に相談してその対策に腐心していたものである。
と陳述し、抗弁として、
四、仮に本件山林原野が債権者等主張のように一〇九名の共有地であつたとしても、債務者等及び選定者等を含む前記債権者大内又良他二八名の者は、昭和二二年八月一五日、本件山林原野につき大字上釜戸から所有権移転登記を受けて以来平穏公然且つ善意無過失にその占有を継続してきたもので、その後一〇年を経た昭和三二年八月一四日の経過と共に時効取得し、債務者等及び選定者等は各二九分の一宛の共有持分を取得した。
五、又前記のとおり、山林委員会は、昭和三二年一〇月頃、本件山林原野中の磐城市大字上釜戸字小繁一二八番の一山林七町四反三畝一二歩に生立する杉立木を一〇九名の共有であると主張して訴外逸見某に売却するに及び、ここに山林委員会と、債務者等及び選定者等との間に、本件山林原野が一〇九名の共有であるか、前記大内又良他二八名のみの共有であるかについて紛争が生じたので債務者等及び選定者は選定者鈴木子之吉の長男で承継人訴外鈴木芳貞、債務者上遠野藤次郎の長男訴外上遠野芙通、選定者鈴木寿の長男訴外鈴木才支、選定者鈴木定次の長男訴外鈴木誠等を債務者等及び選定者等の代理人として、債権者等代理人弁護士A某方に派遣して右紛争について同弁護士に相談し、その対策を講ずるに至つた。かくて同弁護士は昭和三三年四月頃より同年八月頃にわたつて、右債務者及び選定者等代理人より、右紛争の真相を聴し、前記贈与を証する渡辺村々会議々事録謄本、本件山林原野の登記簿謄本、前記各地区所属の山林原野の登記簿謄本、及び本件仮処分決定添付の図面を含む前記字小繁一二八番の一山林七町四反三畝一二歩中の通称菖蒲沢附近の略図の呈示を受け詳細検討の未、債務者等及び選定者等の主張は正当であると断じ、債務者等及び選定者等から前記山林委員会を相手とする本件山林原野についての債務者等及び選定者等の共有権確認訴訟及び右字小繁一二八番の一山林他一筆につき、右山林委員会代表訴外高木米次を債務者とする立木の伐採、搬出禁止仮処分申請事件の依頼を受けてこれを承諾した。而して、同弁護士は右事件を遂行するため、委任状用紙を前記債務者等及び選定者等代理人に手交してこれに共有者二九名の署名押印を得て訴訟代理委任状を作成することを求め、且つ、仮処分申請に要する保証金は同弁護士において立替える旨をも約した。その後事態の成行きをみつつ、右仮処分申請を漸次差控え、山林委員会と睨み合いの状態のままで来たが債務者等及び選定者等において、山林委員会が訴外逸見某に売却した前記個所に接する地域の杉立木を他に売却しようとするや、同弁護士は俄然態度を変え、相手方たる山林委員会の側にまわり同委員会構成員たる債権者等の委任を受けてその代理人となり、債務者等及び選定者等を相手として御庁に本件仮処分の申請をなしたのである。かかる行為はまさに弁護士法第二五条第一号に違反するもので、本件仮処分申請は無効ですみやかに却下せられるべきものである。
六、更に、債権者等の主張によると、本件仮処分事件の本案訴訟は、債権者等主張の共有者全員の債務者等及び選定者等に対する共有権確認の訴であることあきらかであるところ、かかる訴は共有者全員で遂行することを要し、共有者の一部の者のみでは、民法第二五二条による保存行為としてでもこれを為し得ないのであるから、その保全訴訟たる本件仮処分事件においては債権者等はその当事者適格を欠くものである。
と陳述した。
疎明≪省略≫
理由
まず、本件仮処分申請が、弁護士法第二五条第一号に違背する不適法のものであるとの抗弁について判断する。
本件山林原野がもと、福島県磐城市に合併される前の同県石城郡渡辺村大字上釜戸の所有であつたが、昭和二二年六月三〇日大字上釜戸は本件山林原野を含む同大字所有の多数の山林原野を同大字に居住する部落民に贈与し、債権者等主張のように四地区に分けて各共有名義の登記がなされ本件山林原野が債務者等及び選定者等を含む大内又良他二八名の共有の登記がなされたことは当事者間に争が無い。(疎明―省略)綜合すると次の事実が認められる。
即ち、右のとおり大字上釜戸より部落民への贈与がなされた後、本件山林原野中に林道が新設されて次第にその開発が進み、その価値の高騰をみるに至つたのであるが、昭和三二年一〇月にいたり、債権者等主張の山林委員会は、本件山林原野が元大字上釜戸部落民一〇九名全員の共有であつて、登記名義人たる前記大内又良他二八名のみの共有では無い旨主張し、本件山林原野に属する磐城市大字上釜戸字小繁一二八番の一山林七町四反三畝一二歩に生立する杉立木を訴外逸見某に売却するや、これを契機として本件山林原野が右一〇九名全員の共有か、右大内又良他二八名の登記名義人のみの共有に属するかについて山林委員会と、債務者及び選定者等との間で紛争が惹起するに至つた。そこで債務者等及び選定者等は、選定者鈴木子之吉承継人訴外鈴木芳貞、債務者上遠野藤次郎の長男訴外上遠野芙通、選定者鈴木寿の長男訴外鈴木才支、選定者鈴木定次の長男訴外鈴木誠等を代理人として債権者等代理人弁護士A某方に派遣し、同弁護士に右紛争の解決について相談をし、その対策を講ずるに至つた。かくて、同弁護士は本件仮処分申請前である昭和三二年一〇月頃より、昭和三三年末頃迄の間において、右鈴木貞芳等から本件山林原野に関する山林委員会と債務者及び選定者との間の、共有権の帰属をめぐる紛争について、その原因及び経過を聴き、渡辺村々会議事録(乙第一号証)、本件山林原野の登記簿謄本、本件仮処分にかかる地域附近見取図等を呈示され、検討の末、その主張を正当であると判断し債務者等及び選定者等から当時の山林委員会もしくは同委員会構成員を相手とする本件山林原野の共有権確認の訴訟の提起及び本件山林原野中大字釜戸字小繁一二八番の一山林七町四反三畝一二歩についての毛上伐採搬出禁止仮処分の申請を準備し、所要の債務者等及び選定者等の委任状を徴すべく、同弁護士事務所備付けの委任状用紙に同弁護士において右各委任事項を記入したうえ選定者下山田ケイの息子訴外下山田甲に手交した。一方その間に山林委員会は前記売却した山林の伐倒木の搬出を了してしまつたので右仮処分申請をなすことなく、債務者等及び選定者等は山林委員会と睨み合いの状態のままで来たが、此の度畝務者等及び選定者において、前記小繁一二八番の一の山林中、山林委員会が訴外逸見某に売却した前記地域の西方約一〇〇米に地位する地域内の杉立木を他に売却しようとするや、同弁護士は同委員会構成員である債権者等の委任を受けてその代理人となり、債務者等及び選定者等を相手として当裁判所に本件仮処分をなすに至つたものである。如上の認定を左右するに足る疎明はない。
そうすると本件仮処分申請は、A弁護士がさきに債務者等及び選定者等の協議を受けてこれに賛助し、その依頼を承諾した事件の相手方たる債権者等の委任を受け、その代理人としてなしたものであることが明らかであるから、同弁護士による本件仮処分の申請及びその後の訴訟行為はすべて無効というのほかはない。
そうしてみると、債権者等の本件仮処分申請は爾余の点について判断する迄も無く不適法であること明らかである。よつて先に債権者等の申請を容れてなした前掲仮処分決定はこれを取消し、本件仮処分申請はこれを却下することとし、訴訟費用は債権者等に連帯して負担せしめ、仮執行の宣言について、民事訴訟法第一九六条第一項を適用して主文のとおり判決する。
福島地方裁判所平支部
裁判官 小 河 巌
≪土地目録、現場見取図、払下関係一覧表、当事者目録省略≫